はじめに(感染制御認定薬剤師の立場から)
SSI(手術部位感染)サーベイランスは、単に感染を数える作業ではなく、感染対策の質を評価する指標です。その中核となるのが「リスクインデックス」であり、J-SIPHEやJANISへ正確に入力することで、初めて施設内・施設間で意味のある比較が可能になります。さらに上手に利用すれば病院機能評価でも武器になる項目です。
本記事では、薬剤師・看護師などSSIサーベイランス担当者向けに、
- リスクインデックスの考え方
- J-SIPHE入力項目(ASA、創分類、手術手技、手術時間など)の詳細
- SSIサーベイランス対象手術一覧
を、実務目線で解説します。
1.SSIリスクインデックスとは何か
SSIリスクインデックスとは、患者背景や手術条件による感染リスクを数値化し、SSI率を公平に評価するための指標です。
JANIS/J-SIPHEでは、主に以下の要素で構成されます。
- ASA分類(0~1点)
- 創分類(手術創汚染度)(0~1点)
- 手術手技(対象手術の種類)における手術時間(0~1点)
➡総得点0~3点で判定
これらを組み合わせることで、
「リスクの高い患者が多いからSSI率が高いのか」
「対策が不十分でSSI率が高いのか」
を切り分けて評価できます。
2.J-SIPHE入力項目の詳細解説
① ASA分類(American Society of Anesthesiologists Physical Status)
患者の全身状態を表す指標で、SSIリスク評価の重要因子です。
| ASA分類 | 内容 | SSI的な意味合い |
|---|---|---|
| ASA 1(0点) | 健康な患者 | 低リスク |
| ASA 2(0点) | 軽度の全身疾患 | ややリスクあり |
| ASA 3(1点) | 重度の全身疾患 | 高リスク |
| ASA 4(1点) | 生命を脅かす疾患 | 非常に高リスク |
| ASA 5(1点) | 脳死状態 | 極めて高リスク |
JANIS/J-SIPHEでは、一般にASA≧3がリスク加算対象となります。
▶ 薬剤師ポイント:
- 糖尿病、腎障害、悪性腫瘍などの背景を把握
- 周術期ステロイド・免疫抑制薬使用の有無確認
「ASA 3以上の患者では、基礎疾患により腎機能が低下しているケースも多い。予防抗菌薬の投与量調節(例:セファゾリンの増量や投与間隔)が適切になされているかをサーベイランスと同時にチェックすることが、薬剤師の専門性の見せ所です。」
② 創分類(手術創汚染度分類)
手術野の汚染状況を示す分類で、SSI発生率と強く相関します。
| 創分類 | 内容 | 代表例 |
|---|---|---|
| クラス I(0点) | 清潔手術 | 人工関節、心臓血管 |
| クラス II(0点) | 準清潔 | 胃切除、胆嚢摘出 |
| クラス III(1点) | 汚染 | 消化管内容物漏出 |
| クラス IV(1点) | 化膿 | 穿孔性腹膜炎 |
▶ サーベイランス上の注意:
- 術後感染の有無ではなく術中所見で分類
- 看護記録・手術記録とのすり合わせが重要
③ 手術時間
手術時間が長いほどSSIリスクは上昇します。
J-SIPHEでは、
- 手術時間カットオフポイント(分)を設定
- それを超過した場合、リスク加算(1点)
▶ 実務ポイント:
- 麻酔記録と手術記録で時間の定義が異なる場合あり
- 「皮膚切開」から**「(閉腹・閉胸が完了し)手術室を出る直前の処置が終了した時刻」が原則

院内で時間の定義を統一しておこう!
▶ 薬剤師視点:
- 手術時間延長=予防抗菌薬の追加投与(redosing)適応
- サーベイランスと抗菌薬適正使用の接点
④ 手術手技(術式)
SSIサーベイランスでは、対象手術が限定されています。
理由は、
- 症例数が多い
- 手技が標準化されている
- 国際比較が可能
といった点にあります。
3.SSIサーベイランス対象手術一覧(JANIS/J-SIPHE)
以下は代表的なSSIサーベイランス対象手術です(施設により一部選択制)。
消化器外科
- 胃全摘手術(GAST-T)
- 小腸手術(SB)
- 直腸手術(REC)
- 虫垂の手術(APPY)
- 肝胆膵手術(BILI-〇)
心臓・血管外科
- 心臓術(CARD)
- 腹部大動脈血管内手術(AAE)
整形外科
- 人工股関節(HPRO)
- 人工膝関節(KPRO)
- 脊椎再固定術(RFUSN)
産婦人科
- 帝王切開(CSEC)
- 複式子宮摘出術(HYST)
その他
- 乳房切除術(BRST)
- ヘルニア手術(HER)
※ SSIサーベイランス対象手術(JANIS 20術式) JANISでは現在20の術式グループが設定されています。特に**結腸手術(COLO)や人工股関節置換術(HPRO)**などは、多くの施設で必須項目として取り組まれています。 ※対象手術の詳細は、毎年更新される「JANIS SSIサーベイランス解説書」を必ず参照してください。
4.感染制御認定薬剤師としての関わり方
SSIサーベイランスは、看護師任せにしないことが重要です。
薬剤師が関与することで、
- 予防抗菌薬選択の妥当性
- 投与タイミング
- 手術時間延長時の追加投与
- 投与期間の適正化
と、リスクインデックスと直結した介入が可能になります。
リスクインデックスは「入力項目」ではなく
感染対策を評価するための共通言語
おわりに
SSIサーベイランスは、
- 正確な定義理解
- 多職種連携
- 継続的なフィードバック
によって、初めて意味を持ちます。
本記事が、薬剤師・看護師など現場でサーベイランスを担う方々の実務理解の一助となれば幸いです。


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