― 日本化学療法学会ガイドラインに基づく実践的整理 ―
はじめに
手術部位感染(SSI:Surgical Site Infection)対策として、術前・術後の抗菌薬使用は日常診療で非常に頻繁に行われています。一方で、
- 必要以上に広域抗菌薬が使われている
- 術後も漫然と抗菌薬が継続されている
といった場面も少なくありません。
本記事では、日本化学療法学会の周術期抗菌薬予防投与ガイドラインに準拠し、
- 抗菌薬選択の考え方
- 代表的薬剤(セファゾリン、フルマリン[FMOX]、ユナシン[SBT/ABPC]、メトロニダゾール[MNZ])
- 想定菌(常在菌・嫌気性菌)
- 使用期間
を、ICT/ASTの立場から整理します。
2026.1一部修正
周術期抗菌薬使用の基本原則
目的は「治療」ではなく「予防」
周術期抗菌薬は、
- 既存感染症の治療
ではなく、 - 手術操作に伴い侵入する可能性のある菌を抑えるための予防
が目的です。
そのため、
- 想定菌は手術部位から合理的に推定する
- 抗菌薬は必要最小限のスペクトラムと期間にとどめる
ことが原則です。
想定される主な起因菌
① 清潔手術(clean surgery)
- 皮膚常在菌
- 黄色ブドウ球菌(MSSA)
- 表皮ブドウ球菌
👉 グラム陽性球菌が中心
② 準清潔手術(clean-contaminated surgery)
(消化管・胆道・泌尿器など)
- 皮膚常在菌
- 腸内細菌科(E. coli など)
- 嫌気性菌(Bacteroides属など)
👉 グラム陰性桿菌+嫌気性菌を考慮
抗菌薬選択の考え方
① セファゾリン(CEZ)
特徴
- MSSA・レンサ球菌など皮膚常在菌に対して高い有効性
- スペクトラムが狭く、SSI予防の第一選択
- AMR対策の観点からも推奨される
主な適応
- 整形外科手術
- 心臓血管外科手術
- 脳神経外科手術
- 消化管を扱わない一般外科手術
👉 清潔手術ではセファゾリンで十分
② フロモキセフナトリウム(FMOX)、セフメタゾール(CMZ)
特徴
- グラム陰性桿菌に有効
- 嫌気性菌にも一定の抗菌活性を有する
主な適応
- 上部・下部消化管手術
- 胆道系手術
👉 腸内細菌および嫌気性菌が想定される場合に選択
③ 嫌気性菌を特に意識する場合
- 下部消化管手術
- 大腸・直腸手術
この場合の選択肢:
- フロモキセフナトリウム(FMOX)単剤
- セファゾリン(CEZ)+メトロニダゾール(MNZ)
👉 「どの臓器を扱うか」「嫌気性菌カバーが本当に必要か」で差別化する
④ スルバクタム/アンピシリン(SBT/AMPC)
特徴
- グラム陽性球菌・グラム陰性桿菌・嫌気性菌を広くカバー
- βラクタマーゼ阻害薬配合
主な適応
- 下部消化管手術
- 汚染リスクが高い手術
👉 広域であるため、必要な症例に限定して使用
2026.1一部修正
⑤ メトロニダゾール(MNZ)
特徴
- 嫌気性菌に特化した抗菌薬
- Bacteroides属など腸内嫌気性菌に有効
使用場面
- セファゾリンなど、嫌気性菌カバーが弱い薬剤との併用
👉 単剤ではなく併用で役割を発揮
⑥β-ラクタムアレルギーの場合
バンコマイシン(VCM)やクリンダマイシン(CLDM)で代用します。
投与タイミング
術前投与
- 執刀開始30~60分前に初回投与
- 手術開始時に十分な血中濃度を確保することが重要
術中追加投与
- 手術時間が抗菌薬の半減期の2倍を超える場合
- 大量出血時
👉 セファゾリンでは3~4時間ごとが目安
使用期間(最重要ポイント)
ガイドラインの原則
- 術後24時間以内で終了
- 多くの手術では術後投与そのものが不要

IWAKI
高齢者だから5日間くらい使っても・・・。なんて使い方は耐性菌を産みます!
例外的に延長を考慮するケース
- 明らかな汚染手術
- 術中に感染兆候が判明した場合
👉 漫然投与は
- 耐性菌増加
- 副作用リスク
につながる
術前・術後抗菌薬使用でよくある誤解
- 「念のため3日間」→ ❌
- 「高齢だから長めに」→ ❌
- 「炎症反応があるから継続」→ ❌
- 表皮切開なのにセフタジジム(CAZ)→❌
👉 予防投与と治療は別
👉 治療が必要なら、改めて感染症として評価する
ICT/ASTの立場からのメッセージ
- 周術期抗菌薬は、最も標準化しやすく改善効果が見えやすい領域
- 多くの手術はセファゾリンで対応可能
- 使用期間の短縮は、安全性を損なわずAMR対策に直結
- 病院機能評価ではICTにて管理されていることが求められる
迷ったときは、
**「手術部位 → 想定菌 → 予防か治療か」**の順で考えることが重要です。
おわりに
術前・術後抗菌薬使用は、
- 外科医
- 麻酔科医
- 薬剤師
- 看護師
が共通認識を持つことで最適化されます。
本記事が、日常診療における抗菌薬選択を見直す一助となれば幸いです。
2026年1月 抗菌薬 一部修正しました


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