注射が当たり前だった場面で、最近「点鼻」という選択肢が具体化してきました。痛みや注射への恐怖を避けられることはもちろん、投与が難しい場面・環境で使いやすいという臨床的メリットもあります。今回は、**スピジア(ジアゼパム点鼻)・ネフィー(アドレナリン点鼻)・フルミスト(経鼻インフルエンザワクチン)**を取り上げ、薬剤師として知っておきたいポイントを整理します。
スピジア:ジアゼパム点鼻液 ― てんかんの“レスキュー”に

急性のてんかん重積(ステータスエピレプティクス)や持続する発作に対して、迅速に発作を抑える“レスキュー薬”が必要になる場面があります。従来は筋注・静注や坐剤が使われることが多かったですが、スピジアはジアゼパムを有効成分とする点鼻製剤で、鼻腔内に投与することで現場や家庭で比較的簡便に使えるレスキュー薬として承認・発売されています。医療従事者や介護者による投与が想定されており、医療機関外での使用も想定された剤形です。
現場での利点は、針を使わないため手技が比較的簡単で、患者(特に小児)が暴れて針刺しが困難な状況でも投与できる点です。一方で、投与量や使用手順、投与後の観察などは製剤ごとに定められているため、使用前に投与要項・添付文書を確認すること、家族や介護者に対する教育が重要です。
| 商品名/規格 | スピジア点鼻液5mg/7.5mg/10mg |
| 一般名 | ジアゼパム |
| 効果・効能 | てんかん重積状態 |
| 用法・用量 | 通常、成人及び 2 歳以上の小児にはジアゼパムとして、患者の年齢及び体重を考慮し、5~20 mg を 1 回鼻腔内に投与する。効果不十分な場合には 4 時間以上あけて 2 回目の投与ができる。ただし、6 歳未満の小児の 1 回量は 15 mg を超えないこと。 |
| 製造販売承認 | 2025年6月24日 |
医薬品 添付文書より作成
ネフィー(neffy):アドレナリン点鼻液 ― アナフィラキシー時の新たな選択肢

重篤なアレルギー反応(アナフィラキシー)の第一選択はアドレナリン(エピネフリン)で、従来は自己注射(オートインジェクター:例 エピペン®)が標準でした。ネフィーはアドレナリンを点鼻で投与できる製剤で、注射が難しい・ためらわれる場面での代替手段として注目されています。体重に応じた用量設計がなされ、例えば体重30kg未満には1 mg、30kg以上には2 mgなどの投与区分が示されています(製剤・承認状況により差があります)。
利点と留意点:注射に比べて心理的抵抗が少なく、取り扱いが容易という利点があります。また、鼻粘膜からの吸収により迅速な全身作用が期待されるデータも報告されています。ただし、乳幼児など一定以下の体重では適用外である場合があること、重症アナフィラキシーでは注射の確立した手技が引き続き必要な場合があることなど、個別の対応が重要です。導入時には施設・学校・保護者への周知、使用後の再評価・搬送体制の確認が不可欠です。
また、登山や川遊びなど蜂に刺されるリスクの高い場合も必要になることがあるかもしれませんね。もちろん医師の処方が必要なので誰でも携帯できるというわけではないですが。

例えば、給食の時にアレルギーを起こしたかもしれない児童が目の前で倒れたとして、注射だったら躊躇するけど点鼻だったら使えるかも!って思いました。
| 商品名/規格 | ネフィー点鼻液1mg/2mg |
| 一般名 | アドレナリン |
| 効果・効能 | 蜂毒、食物及び薬物等に起因するアナフィラキシー反応に対する補助治療(アナフィラキシーの既往のある人またはアナフィラキシーを発現する危険性の高い人に限る) |
| 用法・用量 | 通常、体重30kg未満の患者には、アドレナリンとして1回1mgを、体重30kg以上の患者には、アドレナリンとして1回2mgを鼻腔内に投与する。 |
| 製造販売承認 | 2025年9月19日(発売日未定:11月現在) |
医薬品 添付文書より作成
フルミスト:経鼻インフルエンザワクチン ― 痛みを避ける予防接種

フルミストは、弱毒生インフルエンザワクチンの経鼻投与剤で、左右の鼻腔に噴霧して接種を完了します。主に小児での適応があり、接種が1回で済む年齢帯や年によって推奨対象が定められる国・地域があります。注射を嫌う子どもにとっては大きな心理的利点があり、学校などでの接種が行われる事例もあります。注射筒と同じ形をしていますが、片鼻に1mLずつ噴霧する薬剤となっています。
注意点としては、弱毒生ワクチンであるため免疫抑制状態のある方や特定の疾患(重度の喘息など)には接種を勧めない場合があり、接種後しばらくは免疫不全者との濃厚接触を避けるよう指示※されることもあります。また接種後に鼻水・鼻詰まりが出やすいなどの局所反応が報告されています。実際にインフルエンザに罹患した例もありますが、ワクチン接種前に感染していた恐れもあり判別は難しいようです。
※フルミストを点鼻した子供に2週間の登園拒否を行った園や学校があるようです。非常に極端な対応ですね。メーカーもこのうような文面がある以上完全に否定できないようです。(2025年10月)
| 商品名/規格 | フルミスト点鼻液 |
| 一般名 | 経鼻弱毒生インフルエンザワクチン |
| 効果・効能 | インフルエンザの予防 |
| 用法・用量 | 2歳以上19歳未満の者に、0.2mLを1回(各鼻腔内に0.1mLを 1噴霧)、鼻腔内に噴霧する。 |
| 製造販売承認 | 2023年3月27日 |
点鼻製剤が「子どもに嬉しい」理由(薬剤師としての視点)
- 痛み・恐怖の軽減:注射が苦手な子どもにとって、鼻にスプレーするだけで済む点鼻は受け入れやすい。
- 現場適応性:家庭・学校・移動先など、医療機関以外でも迅速に投与できる可能性がある(ただし投与者の訓練は必要)。
- 粘膜免疫や迅速吸収の利点:インフルエンザのように上気道での免疫が有効な場合や、アドレナリンのように速やかな全身作用が必要な場面で、経鼻投与が合理的であることがある。
現場で気をつけるポイント(実務的アドバイス)
- 添付文書・用法用量の確認:製剤ごとに投与量、対象年齢・体重、禁忌が異なります。必ず最新の添付文書で確認を。
- 投与者の訓練:点鼻とはいえ正しい手技と観察(副作用、改善の有無、搬送の要否)を身に付けておくこと。特にアドレナリン投与後は、効果が不十分なら追加投与や筋注の検討、救急搬送が必要になる場合がある。
- 保管と携帯:ネフィーのように緊急携行が前提になる製剤は、保存条件や携帯方法(気温管理など)も確認する必要がある。
- 周囲への説明:家族・学校・保育施設に対して、どのような状況で使うのか、使用後の対応(救急搬送の要否など)を事前に共有しておくと安心です。
まとめ:点鼻は「道具の選択肢」を増やす
スピジア(ジアゼパム点鼻)やネフィー(アドレナリン点鼻)、フルミスト(経鼻ワクチン)は、それぞれてんかん発作のレスキュー、アナフィラキシー対応、予防接種という異なる臨床場面で「注射以外の選択肢」を提供します。子どもにとっては痛みや恐怖が減るという直接的なメリットが大きく、医療者にとっても現場での対応幅が広がります。
ただし、どの製剤も適応・禁忌・用法用量・保存条件・使用後の対応が重要で、薬剤師としては添付文書に基づいた指導と、現場での教育・連携をしっかり行うことが必要です。新しい剤形をただ「便利」と歓迎するだけでなく、安全に使える体制づくりを一緒に進めていきましょう。


コメント