オーグメンチンは、アモキシシリン水和物(ペニシリン系) と クラブラン酸カリウム を合剤にした内服抗菌薬です。クラブラン酸は β-ラクタマーゼ阻害剤 として作用し、アモキシシリンが分解されやすい耐性菌への効果を補強します。
薬効分類としては β-ラクタム系+阻害剤合剤に属します。
適応・効能および用法・用量
適応(効能・効果)
添付文書によれば、オーグメンチン配合錠の適応には以下が含まれます。
- 表在性皮膚感染症 / 深在性皮膚感染症 /リンパ節炎・リンパ管炎 /慢性膿皮症
- 咽頭炎・喉頭炎・扁桃炎
- 急性気管支炎、慢性呼吸器疾患の二次感染
- 中耳炎
- 膀胱炎・腎盂腎炎(尿路感染症)
- 淋菌感染症
- 子宮内感染・子宮付属器炎 など
用法・用量
- オーグメンチン 125 SS(低容量錠):通常、成人は1回2錠を1日3~4回(6~8時間ごと)投与。
- オーグメンチン 250 RS:通常成人は1回1錠を1日3〜4回(6〜8時間毎)経口。
- 小児では体重・年齢・症状に応じて適宜増減します。
治療ガイドライン・臨床での使われ方
以下は、臨床領域別にオーグメンチンが第一選択または有用とされるケースや注意すべき点です。
- 誤嚥性肺炎
高齢者などで誤嚥性肺炎が疑われる場合、口腔内常在菌(例:口腔咽頭細菌、嫌気性菌など)が関与することが多いため、アモキシシリン/クラブラン酸が治療薬の選択肢になることがあります。 - 動物咬傷(動物咬み傷)
犬・猫咬傷では、予防投与にオーグメンチンがよく用いられます。これらの創にはペプトストレプトコカッカス属などの嫌気性菌が関与しやすく、オーグメンチンの抗菌スペクトルが適しているからです。
特に欧米では、オーグメンチンによる標準治療に加えて「オグサワ処方」(後述)が使われることがあります。 - 耳鼻科系疾患
中耳炎、扁桃炎、咽頭炎など、耳鼻咽喉領域の細菌感染に対して処方されることがあります。実際に添付文書にこれらが適応として記載されています。
ただし、ガイドライン、特に「抗微生物薬適正使用ガイド」では、扁桃炎や咽頭炎への抗菌薬使用の要否を慎重に判断することが推奨されており、単なるウイルス性咽頭炎には不要とされるケースもあります。 - 皮膚・軟部組織感染症
化膿性皮膚感染やリンパ節炎など、表在性・深在性感染で使われることが多いです。 - 尿路感染症
膀胱炎や腎盂腎炎が適応に含まれるタイプがあります。 - 歯性感染症
歯科領域でも β-ラクタマーゼ産生菌をカバーする目的で使用されることがあります(歯科薬物療法の教科書等でも紹介される)。
“オグサワ処方” とは?治療効果を上げる工夫
「オグサワ処方」は、オーグメンチンとサワシリン(アモキシシリン単剤)を併用する処方です。
- 背景・目的:
ガイドラインなどでは、肺炎球菌やインフルエンザ菌へのアモキシシリン高用量が推奨されることがありますが、オーグメンチン単剤で高用量を出すとクラブラン酸の副作用(吐き気・下痢など)が増えるリスクがあります。 - 方法:
オーグメンチン+サワシリン(アモキシシリン)を併用することで、アモキシシリンの量を高めつつ、クラブラン酸過剰による副作用を最小限に抑えるというアイデアです。 - 注意点:
ただし、こうした処方はすべての施設・すべての症例で標準的にガイドライン化されているわけではなく、適応と投与量は慎重に判断されるべきです。

IWAKI
オーグメンチン250RS 3錠3x +サワシリン(250)3Cap 3xで投与されます。
新人さんが「サワシリンが重複しています!」って、問い合わせしちゃうことありますよね。
β-ラクタマーゼとはおよびクラブラン酸の役割
β-ラクタマーゼとは
- β-ラクタマーゼは細菌が産生する酵素で、β-ラクタム系抗菌薬(ペニシリン系、セファロスポリン系など)の β-ラクタム環を加水分解 して薬を不活化する働きがあります。
- この酵素にはさまざまな型があり、Ambler分類ではクラスA~Dに分けられます。クラスA(たとえば TEM 型、SHV 型、ESBL 等)はクラブラン酸で阻害可能なタイプが多い一方、クラスB(メタロ-β-ラクタマーゼ)などでは阻害が難しいものもあります。
クラブラン酸の役割
- クラブラン酸は β-ラクタマーゼ阻害薬の古典例で、アモキシシリンと併用することで耐性菌に対する抗菌力を大きく強化します。
- クラブラン酸は不可逆的に β-ラクタマーゼと結合し、その活性を抑えることでアモキシシリンの抗菌活性を維持します。
- ただし、すべての β-ラクタマーゼを阻害できるわけではなく、耐性菌対策には β-ラクタマーゼの種類(クラス)を考慮する必要があります。
感染制御・臨床上の留意点
- 耐性菌リスク:β-ラクタマーゼ産生菌への配慮が必要。阻害剤合剤をむやみに使うのではなく、適切な診断および感受性検査が望まれる。
- 副作用:クラブラン酸を含む合剤では、胃腸障害(下痢、軟便)が起こりやすいため、併用剤量設計や投与回数に配慮が必要。
- 治療継続:適応症では医師の指示された投与期間を守ることが重要。途中で中断すると再発や耐性化のリスクがあります。
- 誤嚥リスクのある患者(高齢者等):誤嚥性肺炎では適切な菌カバーを考えた処方設計が必要。
感染制御認定薬剤師として伝えたい「オーグメンチンの秀逸性」
- 幅広い感染症に対応できる
皮膚、耳鼻科、呼吸器、尿路、咬創(動物咬傷)など、多くの臨床場面で使われる。 - β-ラクタマーゼ産生菌にも強い
クラブラン酸が加わることで、アモキシシリン単剤では効きにくい菌に対しても有効性を持たせている。 - 柔軟な処方設計が可能
“オグサワ処方”などで、高用量アモキシシリンをクラブラン酸の副作用リスクを抑えつつ使う工夫がある。 - 耐性管理との両立
抗菌薬適正使用(AS:Antimicrobial Stewardship)の観点でも、効果と副作用、耐性リスクを見ながら使うべき薬である。
まとめ
オーグメンチンは、アモキシシリンとクラブラン酸の組み合わせにより、β-ラクタマーゼ産生菌にも対応できる強力な経口抗菌薬です。臨床では皮膚感染、耳鼻科感染、尿路感染、誤嚥性肺炎、動物咬傷など幅広い適応で使われます。
しかし、単に強力であるからといって安易に使うのではなく、耐性菌リスク、副作用、適応の妥当性を常に評価しながら処方・使用すべき薬です。特に薬剤師や感染制御専門家は、ガイドライン・臨床データ・微生物学的知見を踏まえて適切な使い方を促進する役割が求められます。


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