はじめに:整腸剤とは?
「整腸剤」とは、腸内環境(腸内フローラ)を整える医薬品のことです。
腸内には約100兆個以上の細菌が存在し、健康維持や免疫、消化吸収に深く関わっています。
腸内バランスが崩れると、
- 下痢や便秘
- 抗菌薬による腸内環境の乱れ
- 免疫力低下
など、さまざまな不調が生じます。
整腸剤はこのバランスを整え、“腸を健やかに保つ” ために用いられる薬です。
整腸剤の種類と特徴
整腸剤は主に「乳酸菌」「ビフィズス菌」「酪酸菌」などの善玉菌を含む製剤で、菌種によって効果や特徴が異なります。
菌種 | 主な製品例 | 特徴・効果 |
---|---|---|
乳酸菌製剤 | ビオフェルミンR®、ラックビーR®、ビオフェルミン配合散® | 腸内で乳酸を産生し、悪玉菌の増殖を抑える |
ビフィズス菌製剤 | ビオフェルミン散剤® | 大腸の環境を整え、便通改善や下痢抑制に効果 |
酪酸菌製剤 | ミヤBM® | 酪酸を産生し、腸上皮細胞のエネルギー源となる。抗炎症作用 |
耐性乳酸菌 | ラックビーR散®など | 抗菌薬併用下でも生残しやすい |
糖化菌・ラクトミン・酪酸菌 | ビオスリー®など | 3剤の配合により、有害菌の発生を抑制し腸内環境を正常化 |
整腸剤って便秘にも効くの?
整腸剤は下痢にも便秘にも効果が期待されます。
腸内環境が整うことで、
- 腸の蠕動(ぜんどう)運動が正常化
- 腸内pHの改善
- 腸内ガスや腐敗物の減少
といった作用が起こり、結果的に排便リズムが整いやすくなるのです。
ただし、即効性はないため、数日〜1週間程度の継続がポイントです。

病棟でもよく話題に上がりますが、整腸剤は便秘には効かないと思っている方は多いと思います。
抗菌薬と整腸剤の関係
抗菌薬(抗生物質)は感染症治療に欠かせませんが、同時に腸内の善玉菌も殺してしまいます。
その結果、
- 下痢
- 腹部膨満感
- 腸内フローラの乱れ(ディスバイオシス)
が起こりやすくなります。
このような副作用を防ぐため、抗菌薬投与中・投与後に整腸剤を併用することがあります。
🔹抗菌薬耐性整腸剤とは?
一部の整腸剤(例:ミヤBM®、ビオフェルミンR®など)は、特定の抗菌薬に対して耐性を持つ菌株を含んでおり、抗菌薬と同時投与しても生き残ることができます。
これにより、抗菌薬による腸内細菌叢の乱れを防ぐ効果が期待されます。
プロバイオティクスとプレバイオティクスの違い
整腸作用を語るうえで欠かせないのが、次の2つの概念です👇
用語 | 意味 | 例 |
---|---|---|
プロバイオティクス | 腸内環境を改善する善玉菌そのもの | ビフィズス菌、乳酸菌、酪酸菌など |
プレバイオティクス | 善玉菌のエサになる成分 | オリゴ糖、食物繊維、イヌリンなど |
つまり、
- プロバイオティクス=菌を入れる
- プレバイオティクス=菌を育てる
という関係です。
近年は、両者を組み合わせた「シンバイオティクス」という考え方も注目されています。
腸を整えることで期待できる効果
腸は「第2の脳」とも呼ばれ、全身の健康に深く関わっています。
腸内環境を整えることで、以下のような効果が期待されます。
- 免疫力の向上(免疫細胞の約70%が腸に存在)
- 感染症予防(腸粘膜バリアの強化)
- アレルギー体質の改善(免疫バランス調整)
- 肌荒れ・ニキビの改善(腸内毒素の排出促進)
- メンタルヘルスの改善(腸脳相関:セロトニンの産生)
腸内細菌叢の乱れで起こる病気
腸内フローラのバランスが崩れる(ディスバイオシス)と、さまざまな疾患リスクが高まります。
分野 | 主な疾患 |
---|---|
消化器 | 過敏性腸症候群(IBS)、潰瘍性大腸炎、Clostridioides difficile感染症 |
代謝 | 肥満、糖尿病、脂質異常症 |
精神・神経 | うつ病、不安障害、自閉スペクトラム症 |
免疫 | アレルギー疾患、自己免疫疾患 |
皮膚 | アトピー性皮膚炎、ニキビ |
腸内環境は全身の健康に密接に関係しているため、整腸剤の服用=腸活の医療版といえます。
まとめ:整腸剤で「腸から整える」健康習慣を
ポイント | 内容 |
---|---|
整腸剤の目的 | 腸内環境(腸内フローラ)を整える |
主な成分 | 乳酸菌・ビフィズス菌・酪酸菌など |
抗菌薬との関係 | 抗菌薬による腸内乱れを防ぐ |
便秘にも有効? | 排便リズムを整える効果あり |
関連概念 | プロバイオティクス・プレバイオティクス・シンバイオティクス |
腸を整えることは、単に「お腹の調子を良くする」だけでなく、
免疫・代謝・精神面の健康にもつながる重要なケアです。
薬剤師としても、患者さんの腸の健康を支える視点を持つことが求められています。
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