はじめに
近年、「帯状疱疹(たいじょうほうしん)」という病気に注目が集まっています。中高年層を中心に発症が増加しており、テレビや新聞でも取り上げられることが増えてきました。帯状疱疹は命に直結する病気ではありませんが、強い痛みや後遺症を残すことがあり、生活の質(QOL: Quality of Life)を大きく低下させる病気です。
そして、この病気には予防手段として「ワクチン」が存在します。本記事では、帯状疱疹の基本的な知識からQOLへの影響、ワクチンによる予防効果までを詳しく解説します。
帯状疱疹とはどんな病気か
帯状疱疹は、水ぼうそうの原因となる「水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)」が原因です。子どもの頃に水ぼうそうにかかると、このウイルスは体の神経節に潜伏し、免疫力が低下したときに再び活動を始めて「帯状疱疹」として発症します。
特徴的なのは、体の左右どちらか片側に沿って出る赤い発疹と強い痛みです。皮疹は2〜3週間で治まりますが、その後も痛みが長期間残ることがあります。
帯状疱疹の合併症とQOL低下
帯状疱疹の最大の問題は「帯状疱疹後神経痛(PHN: Postherpetic Neuralgia)」と呼ばれる後遺症です。皮疹が治っても、神経に損傷が残り、数ヶ月から数年にわたり激しい痛みが続くことがあります。
この痛みは「焼けるよう」「電気が走るよう」と表現され、就眠困難や食欲低下、抑うつなどにつながります。特に高齢者では、痛みにより外出や家事が困難となり、介護が必要になるケースもあります。
QOL(生活の質)への影響例
- 身体的側面:歩行や着替えなどの日常動作が困難
- 心理的側面:慢性的な痛みによる不眠、不安、うつ状態
- 社会的側面:外出や趣味活動の制限、孤立感の増大
- 経済的側面:治療費の長期化、仕事の継続困難
ある調査では、帯状疱疹後神経痛を発症した患者のQOLは、心筋梗塞やうつ病と同等レベルまで低下するとの報告もあります。つまり「命に関わらない病気」と軽視できない深刻さがあるのです。
誰がかかりやすいのか
帯状疱疹は誰でもかかる可能性がありますが、特に以下の人はリスクが高いとされています。
- 50歳以上の中高年
- 糖尿病やがんなど免疫力が低下する基礎疾患を持つ人
- ストレスや疲労が蓄積している人
- ステロイドや免疫抑制剤を使用している人
日本では、一生のうちに帯状疱疹になる人は3人に1人といわれており、決して珍しい病気ではありません。
帯状疱疹ワクチンについて
帯状疱疹を予防する有効な手段が「ワクチン」です。現在、日本で使用できるのは2種類です。
★2025年度から、65歳の方などへの帯状疱疹ワクチンの予防接種が、予防接種法に基づく定期接種の対象になった。
定期接種 対象者
以下に該当する方が対象です。
- 65歳を迎える方
- 60~64歳で対象となる方(※1)
- 2025年度から2029年度までの5年間の経過措置として、その年度内に70、75、80、85、90、95、100歳(※2)となる方も対象となります。
※1:ヒト免疫不全ウイルス(HIV)による免疫の機能障害によって日常生活がほとんど不可能な方
※2:100歳以上の方は2025年度限りが全員対象です。
厚生労働省ホームページより

著者作
① 生ワクチン(乾燥弱毒生水痘ワクチン)
- 対象:50歳以上
- 接種回数:1回
- 効果持続:5年程度
- 特徴:安価で副反応は少ない。ただし免疫抑制状態の人には接種できない。
- 価格:7,000円~8,000円(定期接種の助成額はだいたい半額)
② 不活化ワクチン(シングリックス®)
- 対象:50歳以上(免疫抑制患者にも接種可能)
- 接種回数:2回(2か月間隔)
- 効果持続:9年以上とされる
- 特徴:予防効果は90%以上と非常に高いが、注射部位の腫れや発熱など副反応がやや多い。費用も高額。
- 価格:20,000円~30,000円x2回(定期接種の助成額はだいたい半額)
ワクチン接種によるメリット
ワクチン接種は、帯状疱疹そのものの発症を抑えるだけでなく、重症化や帯状疱疹後神経痛のリスクを大幅に減らします。
特に不活化ワクチンはPHN発症率を9割近く低下させるというデータがあり、QOL低下を防ぐ上で極めて有効です。
接種を考えるタイミング
- 50歳を超えたら一度検討:免疫力の低下が始まるため
- 体調が安定している時期に:持病がある場合は主治医と相談
- ワクチンの種類を比較検討:効果の持続期間や費用、副反応など
帯状疱疹とQOL ― まとめ
帯状疱疹は「命に関わらない病気」として軽く見られがちですが、強い痛みや後遺症によって生活の質を大きく損なう病気です。発症後の治療だけでは、QOL低下を完全に防ぐのは難しいのが現実です。
だからこそ、予防のためのワクチン接種が重要です。特に50歳を過ぎたら、帯状疱疹のリスクとQOLへの影響を理解し、早めに対策を検討することをおすすめします。
おわりに
「健康寿命」という言葉が注目される現代において、痛みや不安で生活が制限されるのは避けたいものです。帯状疱疹ワクチンは、そのための有力な手段です。ご自身やご家族の将来のQOLを守るために、かかりつけ医と相談し、ぜひ接種を前向きに考えてみてください。
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