薬学生の実務実習とは?11週間の教育方法と指導薬剤師養成ワークショップの概要

薬剤師全般

はじめに

薬学教育制度の大きな柱の一つが 実務実習 です。大学で学んだ知識を現場で実践し、薬剤師として必要な態度・技能を身につける貴重な経験となります。医師の現場においてもスチューデントドクター制度など学生が「臨床」を体験できる場が重要視されています。

以前は「臨床の知識は現場に出てからみにつけるもの」という風習が強かったのですが、医師のような研修医制度がない薬剤師の現場ではどのようにして臨床の知識を身に着けるかが課題でした。


本記事では、現在行われている 11週間の実務実習の教育方法、その制度が整備されてきた背景、さらに薬学生に誰でも教えていいわけではない!指導薬剤師というものがあるので、 実務実習指導薬剤師養成ワークショップ について解説します。


実務実習の期間の変遷

薬学教育の中での実務実習は、時代とともに大きく変わってきました。

  • 2000年以前:病院や薬局での短期見学実習が中心で希望者のみ(1〜4週間程度)
  • 2006年~2009年:病院2週間・薬局2週間又は病院4週間の実習が単位化
  • 2006年:薬学部が6年制へ移行
  • 2010年:長期実務実習が開始(病院11週間+薬局11週間、合計22週間)
  • 現在:薬局と病院をそれぞれ11週間ずつ、通年で実施(合計6か月弱)

この変遷によって、薬学生が臨床現場で「実際に役割を担う」時間が大きく増え、実践力重視の教育が可能になりました。

IWAKI
IWAKI

私が卒業した2006年の世代では4週間の病院実習が単位化され必修科目となりました。


実務事前実習、薬学供用試験合格後の5年次に実務実習となります。これに係る費用は大学の授業料に盛り込まれています。

11週間実務実習の教育方法

1. 教育の基本方針

  • モデル・コアカリキュラムに基づき、全国で共通した到達目標を設定
  • 学生は「見学」ではなく 参加型実習 を行う
  • 病院と薬局でそれぞれ異なる重点分野を学ぶ
  • 代表的8疾患について学ぶ。代表的8疾患とはがん、高血圧症、糖尿病、心疾患、脳血管障害、精神神経疾患、免疫・アレルギー疾患、感染症の8つを指します。
IWAKI
IWAKI

薬学生は、これらの疾患の病態や薬物療法について深く理解し、実際の医療現場で患者と継続的に関わることで、薬剤師としての臨床能力を養います

2. 病院実習の内容(例)

  • 入院患者への服薬指導、チーム医療体験(感染制御、栄養、緩和ケア、褥瘡など・・・)
  • 注射薬調剤や化学療法レジメンの確認、副作用のモニタリング
  • 医薬品情報業務(DI室)や薬物治療モニタリング(TDM)の実施
  • 病棟での実務体験と症例レポート作成
  • 退院時カンファレンスへの参加

3. 薬局実習の内容(例)

  • 調剤・監査・服薬指導
  • 在宅医療や地域連携の体験
  • OTC医薬品やセルフメディケーションの指導方法
  • 地域イベントや健康相談活動への参加

4. 指導方法

  • OJT(On the Job Training):実務を経験しながら学ぶ
  • 事前学習・事後学習:大学でのケーススタディや振り返りと連動
  • 評価:知識・技能・態度を多面的に評価(レポート・小テスト・ルーブリック評価)

実務実習指導薬剤師養成ワークショップとは?

薬学生の指導はもちろん薬剤師が行いますが、誰でもいいというわけではありません。薬学生の臨床教育は「指導薬剤師」が行います。この「指導薬剤師」は一般社団法人 薬学教育協議会が認定した薬剤師が名乗ることができ、講習会への参加と、ワークショップへの参加が義務付けられています。

 一般社団法人 薬学教育協議会 https://yaku-kyou.org/

目的

実務実習を担う薬剤師を養成し、教育方法を標準化することを目的としています。

IWAKI
IWAKI

この””標準化””って簡単な事じゃなくて、薬学生の成果、結果に対して指導薬剤師がバラバラな評価では良くないですよね!

実施主体

  • 一般社団法人 薬学教育協議会
  • 病院・薬局実務実習調整機構
  • 大学、病院薬剤師会、薬剤師会と連携して開催

内容・項目

  • 実務実習の理念と制度
  • 教育技法(OJTの方法、フィードバック、学生対応)
  • 目標、パフォーマンスとは
  • 方略とは
  • 評価方法(ルーブリック評価の活用)
  • 倫理・態度教育(ハラスメント防止含む)

期間・形式

  • 1泊2日または2日間の集中研修形式(例:1日目8時半~20時、2日目8時半~18時)
  • 10人1グループによるグループワークによる目標・評価・方略作成の実践
  • 成果物作成後に通常3グループでの総合討論
  • グループワークやロールプレイを通じて教育スキルを習得

費用

  • 参加費:約5万円弱(宿泊費・教材費込みの場合あり)

要件

認定の資格要件


(1)認定実務実習指導薬剤師となるための基本的素養等
認定実務実習指導薬剤師は、次の素養等を有する者とする。
①十分な実務経験を有し薬剤師としての本来の業務を日常的に行っていること。
②薬剤師を志す学生に対する実習指導に情熱を持っていること。
③常日頃から職能の向上に努めていること。
④実習の成果について適正な評価ができること。
⑤認定取得後も継続的かつ日常的に薬剤師実務に従事する見込みがあること。
⑥実務実習生の受入期間中、恒常的に指導することができること。
(2)認定要件
次の認定実務実習指導薬剤師養成研修をすべて修了した薬剤師であること。
講習会形式の研修
講座① 薬剤師の理念
講座② 薬学教育モデル・コアカリキュラム及び薬学実務実習に関するガイドライン
講座③ 学生の指導(法的問題)、学生の指導(薬局関係)及び学生の指導(病院関係)
なお、講習会形式の研修は、講座番号の若い順に受講するものとする。
ワークショップ形式の研修
この法人が認めるワークショップとする。
受講証又は修了証の有効期間
講習会形式の研修の受講証(研修修了日が平成 30 年(2018 年)4 月 1 日以降のものに限
る。)又はワークショップ形式の研修の修了証(研修修了日が平成 30 年(2018 年)4 月 1 日
以降のものに限る。)の有効期間は、研修受講日又は研修修了日から 6 年間とする。有効期
間を過ぎた受講証又は修了証は無効である。

(3)勤務要件
直近1年以上継続的に病院又は薬局において薬剤師実務に従事
(勤務時間数が 1 週間当たり 3 日以上かつ 20 時間以上の場合に限る。)していること。

詳しくは 一般社団法人 薬学教育協議会HPを参照してください。https://www.shidou-yakuzaishi.com/cpems/contents/pdf/yoryo.pdf


実務実習の課題と今後の展望

  • 学生のモチベーション差:主体性を高める教育方法の工夫が必要
  • 指導薬剤師の負担:臨床業務との両立が課題
  • 地域医療の多様化:在宅・地域連携・ICT活用など新しい領域も拡大

今後は、AIやICTを用いた教育補助ツール、オンラインでの事前・事後学習の充実が期待されています。


まとめ

薬学生の 11週間実務実習 は、薬剤師になるための最重要ステップです。5年次の学生はこれからの進路を決めるうえでも重要な11週間と言えるでしょう。
その背景には、実習制度の歴史的変遷と、指導薬剤師を育てる 養成ワークショップ の存在があります。

「患者に向き合う薬剤師」を育てるために、実習現場と大学、そして薬剤師自身の成長がこれからも求められるでしょう。

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