抗菌薬の適正使用(Antimicrobial Stewardship:AS)を推進するうえで、使用量を定量的に評価することは非常に重要です。
その評価指標としてよく用いられるのが AUD(Antimicrobial Use Density) と DOT(Days of Therapy)。抗菌薬の使用量は自施設だけの数値を見ていてもわかりません。他施設と比べることによって良い点や悪い点が見えてきます。その点AUDは非常にわかり易い数値となっています。
さらに、WHOが提唱する「AWaRe分類」の概念も、耐性菌対策や適正使用を考えるうえで欠かせません。
本記事では、これらの用語を薬剤師・医療従事者の方にもわかりやすく解説します。
AUDとは?(抗菌薬使用密度)
AUD(Antimicrobial Use Density) は、「抗菌薬の使用量」を示す代表的な指標です。
一定期間・一定規模(例:100床あたり・1日あたり)でどれだけの抗菌薬が使われたかを数値化します。
🔹計算式
AUD = 特定期間の抗菌薬総使用量 (g)x100 /(DDD × 特定期間の延べ入院患者数)
- DDD(Defined Daily Dose):WHOが定める1日標準使用量
- 延べ入院患者数:期間中の延べ患者延数
🔹特徴
- 抗菌薬の使用量の多さを把握できる
- 施設間や年度間の比較に有用
- ただし、同一患者の併用投与では使用量が多く見える傾向がある
DOTとは?(Days of Therapy)
DOT(Days of Therapy) は、「抗菌薬が実際に投与された日数」を示す指標です。
1剤を1日使用したら、それを 1DOT としてカウントします。
🔹計算式
DOT = 特定期間の抗菌薬総使用量 (日)x100 / 特定期間の入院患者延べ日数
🔹定義の例
- 同日にセフトリアキソン1日投与 → 1DOT
- 同日にセフトリアキソン+バンコマイシンを併用 → 2DOT
🔹特徴
- 実際の治療期間を反映できる
- 多剤併用の影響を正確に把握できる
- ただし、投与量の違い(高用量・低用量)は反映されない
AUD/DOTとは?(抗菌薬使用強度の目安)
AUD/DOT は、抗菌薬の「使用量(AUD)」と「使用日数(DOT)」の比率で、
1DOTあたりにどれだけの抗菌薬が使われているか
を示す指標です。
🔹意味するところ
- AUD/DOTが高い → 高用量または短期間集中投与の傾向
- AUD/DOTが低い → 低用量または長期間投与の傾向
この指標を用いることで、抗菌薬使用の“強さ”をより正確に評価できます。
抗菌薬統計を取るメリット
抗菌薬使用量を統計的に分析することで、以下のようなメリットがあります。
🔹1. 使用傾向の把握
どの抗菌薬が多く使われているか、季節や診療科ごとの傾向を把握できます。
🔹2. 適正使用の評価
広域抗菌薬の多用や不必要な長期投与など、改善すべき点を見つけやすくなります。
🔹3. 介入効果の可視化
ASチームの介入(制限運用や教育活動)がどの程度効果を上げているか、数値で示すことができます。
🔹4. 施設間比較
同規模病院や地域内施設と比較することで、自施設の使用傾向を客観的に評価できます。
はじめに:AWaRe分類とは?
AWaRe分類(Access, Watch, Reserve) とは、
WHO(世界保健機関)が2017年に提唱した抗菌薬の使用指針分類です。
目的は、
抗菌薬の適正使用を促進し、耐性菌の発生・拡大を抑制すること。
世界的に増加する薬剤耐性菌(AMR)に対抗するため、抗菌薬を「使うべき」「慎重に使うべき」「最後の手段として使うべき」という3つのカテゴリーに分け、使用の優先度と管理レベルを明確化しています。
1. Access抗菌薬(アクセス群)
🔹定義
「第一選択として広く利用できるべき抗菌薬群」。
感染症の初期治療において、最も推奨される抗菌薬がここに含まれます。
🔹特徴
- 有効性・安全性・コスト・耐性誘導リスクのバランスが良い
- 基本的に狭域スペクトル(必要最小限の抗菌範囲)
- 外来や軽症感染症において使用推奨
- WHOは、Access抗菌薬の使用割合を全体の60%以上にすることを目標に設定
🔹主なAccess抗菌薬
系統 | 代表的薬剤名 |
---|---|
ペニシリン系 | アモキシシリン、アンピシリン |
セフェム系 | セファゾリン、セフトリアキソン |
マクロライド系 | アジスロマイシン、クラリスロマイシン |
ニューキノロン系 | シプロフロキサシン |
テトラサイクリン系 | ドキシサイクリン |
2. Watch抗菌薬(ウォッチ群)
🔹定義
「耐性菌リスクが高いため、使用を慎重にすべき抗菌薬群」。
使用頻度が高いほど、耐性菌発生のリスクが上昇する薬剤群です。
🔹特徴
- 広域スペクトル抗菌薬が多い
- 重症感染症や特殊な感染症で必要となる場合に使用
- 抗菌薬適正使用支援チーム(AST)などによる使用制限・監査が推奨される
🔹主なWatch抗菌薬
系統 | 代表的薬剤名 |
---|---|
第3世代セフェム系 | セフトリアキソン、セフォタキシム |
カルバペネム系 | メロペネム、イミペネム |
ニューキノロン系 | レボフロキサシン、モキシフロキサシン |
アミノグリコシド系 | ゲンタマイシン、アミカシン |
グリコペプチド系 | バンコマイシン、テイコプラニン |
3. Reserve抗菌薬(リザーブ群)
🔹定義
「多剤耐性菌感染に対して、最後の手段として使用される抗菌薬群」。
通常は他の抗菌薬が無効な場合のみ使用されます。
🔹特徴
- 耐性菌感染症に限定して使用
- 感染症専門医やASTによる厳密な適応管理が必要
- 不適切な使用は“最後の砦”を失うことに直結する
🔹主なReserve抗菌薬
系統 | 代表的薬剤名 |
---|---|
オキサゾリジノン系 | リネゾリド、テジゾリド |
ポリペプチド系 | コリスチン(ポリミキシンB/E) |
セフェム系 | セフェピム、セフォゾプラン |
環状リポペプチド系 | ダプトマイシン |
その他 | チゲサイクリン、セフィデロコル |
AWaRe分類の目的と意義
🎯1. 抗菌薬使用の「見える化」
分類により、どのグループの抗菌薬がどれだけ使われているかを定量的に評価できる。
→ AMS活動のモニタリング指標として活用可能。
🎯2. 耐性菌リスクの軽減
Access群の使用割合を増やし、Watch・Reserve群の不必要な使用を抑えることで、
耐性菌の発生リスクを低減できる。
🎯3. 政策・教育への活用
国レベル・施設レベルでの抗菌薬使用計画(Antimicrobial Stewardship Plan)策定に活用でき、
医学生や薬学生への教育教材としても利用可能。
AWaRe分類の使用目標(WHO推奨)
WHOは、各国や医療機関に対して以下の目標を設定しています。
カテゴリー | 使用割合の目標 | 管理レベル |
---|---|---|
Access | 60%以上 | 積極的に使用推奨 |
Watch | できる限り抑制 | 使用制限・監査対象 |
Reserve | 必要最小限 | 専門医・ASTが管理 |
このバランスを維持することで、抗菌薬の有効性を将来にわたって守ることが期待されています。
まとめ:AWaRe分類はASの道しるべ
分類 | 意味 | 使用方針 |
---|---|---|
Access | 第一選択で推奨される抗菌薬 | 積極的に使用 |
Watch | 耐性誘導リスクの高い抗菌薬 | 慎重に使用 |
Reserve | 最後の手段としての抗菌薬 | 専門家が管理 |
AWaRe分類は単なる「リスト」ではなく、
抗菌薬適正使用(AMS)の実践を支える世界共通のツールです。
薬剤師として、Access群の使用促進とWatch/Reserve群の慎重使用を意識することが、
未来の感染治療を守る一歩になります。
まとめ:数値で「見える化」することが適正使用の第一歩
指標 | 内容 | 特徴 |
---|---|---|
AUD | 抗菌薬の使用量 | 投与量の多さを評価できる |
DOT | 抗菌薬の使用日数 | 実際の治療期間を評価できる |
AUD/DOT | 量と期間の比 | 高用量・低用量の傾向を可視化 |
AwaRe分類 | 耐性菌抑止のための分類 | 耐性抑制のための使用促進が推奨される |
抗菌薬使用の見える化は、AS活動の出発点です。
自施設のAUD・DOTを定期的にモニタリングし、Access抗菌薬の使用割合を高めることが、耐性菌対策の実践につながります。
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