〜感染対策担当者・薬剤師が押さえるべきポイント〜
手指衛生は医療関連感染対策の核心の一つです。 医療従事者は患者と接する機会が多く、手指が感染伝播の主要な経路になるため、適切なアルコール消毒の使用は感染率低下に直結します。ここでは、効果を最大化する使用方法と、実務で使用量を増やすための戦略を整理します。
1)手指消毒用アルコールの役割と基本
✔ なぜアルコール消毒が重要なのか
アルコール手指消毒剤(アルコールベースハンドラブ:ABHR)は、エンベロープを持つウイルス(インフルエンザ、コロナウイルスなど)や多くの細菌に対して有効です。アルコールは微生物のタンパク質を変性・凝固させて不活化します。60〜95%の濃度範囲で効果が認められていますが、WHOやCDCは特に エタノール80%、イソプロパノール75% を推奨しています。日本の医療現場で一般的に使われる「外用消毒用エタノール(76.9〜81.4vol%)」です。
一方で 目に見える汚れがある場合は流水と石けんによる手洗いが必要です。これはノロウイルスやC. difficile のようにアルコールに抵抗性のある病原体への対応や、油汚れなどが介在する場合に重要です。
2)効果的な使用方法
✔ アルコールを正しく塗布する基本手順
アルコール消毒の効果を最大化するための基本は、手指全体を覆いながら擦り込むことです。量や手順が不十分だと、十分な微生物の不活化に至りません。
- 手のひら全体に十分な量を取る
- 手の甲・指の間・親指・指先までしっかり擦り込む
- 最低20〜30秒かけて乾燥させること(手が自然に乾くまで擦る)
「WHOのガイドライン等では、手指全体を覆い、乾燥まで20〜30秒かかる量を推奨しています。製品のポンプ1押し分(約1.5〜3mL)が目安となりますが、手が大きい場合や乾燥が早すぎる場合は、量を増やす必要があります」
3)WHOが提唱する「手指衛生 5つのタイミング」
WHOは医療現場での手指衛生の実行機会を以下のように整理しています。これらは どの場面で手指消毒を行うべきかを示す5つの基本的瞬間(My 5 Moments for Hand Hygiene) です。
- 患者に触れる前
→ 伝播感染を防ぐため - 清潔/無菌操作の前
→ 体内侵入を防ぐ - 体液に曝露された可能性のある後
→ 自身と環境を守る - 患者に触れた後
→ 汚染された手をリセット - 患者周辺の物品に触れた後
→ 環境表面からの反射汚染を防ぐ
これを実践することで、感染リスクを体系的に防ぐことができます。
4)WHO推奨の1日手指消毒回数と使用量
WHOは 1日あたり患者1人につき20回/20 mL程度を衛生目安として提示しています。これはあくまで目安ですが、実際には患者密度・ケアの複雑さ・病棟の役割によって必要回数は変動します。実務では 実データを測定し、目標値と比較しながら改善していくことが推奨されています。
5)J-SIPHEでのサーベイランスと評価
✔ 手指衛生のサーベイランス項目
J-SIPHEでは、手指消毒アルコールの使用量/患者日数などがサーベイランス項目として実装されています。これにより、
- 年次推移
- 部署別使用量
- 比較可能な指標
としてモニタリングすることで、遵守状況や改善効果を定量的に評価できます。
また、使用量の増加だけではなく、**遵守率の観察(直接観察など)**と組み合わせることが重要で、J-SIPHEの数値だけで判断せず複合的に評価することが効果的です。
✔なぜ手指消毒用アルコールの評価が必要なのか
手指消毒用アルコール量を増やそう!!師長から怒られるから増やそう!!アルコール使用量を増やすのは目的はないですよね。
手指をアルコール消毒することによって水平伝播を抑え「持ち込まない」・「拡げない」・「持ち出さない」を徹底します。
極論、アルコール消毒なんかしなくても毎回どこでも手を洗えればいいんです。ただ、毎回手を洗えるわけではないので手指消毒用アルコールがあります。

6)製品ラインナップと成分の役割
✔ 主な製品とフォーマット
手指消毒用アルコール製品には
- 液体タイプ
- ゲルタイプ
- 泡タイプ
- ワイプ(シート)
などがあり、使用環境や目的に応じて使い分けられます(ベッドサイド、個人携帯、入口設置など)。一般的には 手指消毒剤(医薬品・医薬部外品)の表記があるものが医療現場で推奨されます。
✔ グリセリン(保湿剤)が入っている理由
アルコールは皮膚の脂質を取り除くため、頻回使用で手荒れが起こりやすい性質があります。
そのため、 グリセリンのような保湿剤を配合することで
- 手荒れを軽減
- 継続使用による遵守率低下を防ぐ
という目的があります。肌への刺激軽減は遵守率向上という観点からも推奨されています。
7)使用量を増加させるための実践的アプローチ
✔ APC(アクセス・ポイントを増やす)
- 診療室・病室・ベッドサイド・共用設備近くに
手指消毒ディスペンサーを十分に設置 - 個人用消毒剤をスタッフに配布
→ アルコールに触れるハードルを下げることで使用回数増加に繋がります。
✔ 可視化・フィードバック
- 月次の使用量データを報告
- 部署別/職種別での比較
- 目標値を設定し達成度を表示
- 病室にあるのも、PCなどがいかに不潔なものか知らせる
これらは行動変容を促す有効な方法です。
✔ 教育とモニタリング
- 直接観察法や定期講習
- ケーススタディを用いた教育
→ 「5つのタイミング」の理解と実践を促進します。
8)感染対策向上加算での平均使用量(目安)
厚労省の通知では、感染対策向上加算1〜3において 具体的な全国平均使用量の公表データは一般公開されていませんがJ-SIPHEを利用すれば算出が可能です。
- 感染対策向上加算 3 施設では患者1人/日あたり 15 mL 程度
- 加算1・2でも8-10mL程度
という現場目安があります。これはWHOの推奨値と整合し、現実的な使用目標設定に使える基準です。

まとめ
手指消毒用アルコールの効果を最大化し、使用量を増やすには
- 正しいタイミングと手順(5つのタイミング)で使用
- 目安量と適切な濃度(60〜95%、WHO 80% エタノール等)
- 使用量のサーベイランスと行動変容アプローチ
- 肌への負担を軽減する成分(グリセリン)や環境整備
が重要です。
これらは 単なるチェックリストではなく、組織として一貫した感染対策戦略につながります。
特に手指衛生は ICT・薬剤部が主導できる最も基本的で有効な対策ですので、今日からできる工夫をぜひ実践してください。

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