2028年度(令和10年度)から、日本の薬剤師教育は大きく変わります。
これまで薬学生は、病院11週間+薬局11週間の計22週間の実務実習を行ってきました。しかし、新たに**「薬学実践実習(約8週間)」**が導入される予定です。
この制度は、単なる実習期間の延長ではありません。
目的は、より実践的な臨床能力を持つ薬剤師を育てることです。
本記事では、現役薬剤師の視点から
- 薬学実践実習とは何か
- 従来の実務実習との違い
- 現場に求められる変化
について、わかりやすく解説します。
薬学実践実習とは?
2028年度から導入される「薬学実践実習」は、従来の実務実習(22週間)終了後に行われる追加実習です。
目的は、次の通りです。
臨床における実践的能力をさらに高めること
これは、薬学教育モデル・コア・カリキュラム(令和4年度改訂版)の中で示された、臨床薬学教育の第3フェーズに位置づけられています。
薬学教育は、次の3段階で構成されています。
フェーズ① 事前学修(大学)
シミュレーション教育を中心に基礎を学ぶ段階
フェーズ② 実務実習(22週間)
病院・薬局で患者から学ぶ実習
- 病院:11週間
- 薬局:11週間
フェーズ③ 深化学修
実習後に臨床能力をさらに高める段階
ここに**「薬学実践実習(約8週間)」**が加わる形になります。
薬学実践実習の5つのポイント
新制度の特徴を整理すると、次の5つが重要です。
① 臨床能力を深める実習
実習先は基本的に
- 病院
- 薬局
です。
また、行政機関や研究機関、医薬品卸売業なども想定しており、就職活動の多様性にも対応しています。
② 実習期間は8週間が基本
期間は
約8週間
ただし施設や大学の事情により
1週間単位で増減可能(連続していなくてもよい)
とされています。
③ 4年次にマッチング予定
実習先のマッチングは
4年次に行われる予定
です。
しかも
- 病院実習
- 薬局実習
- 実践実習
を同時にマッチングする可能性があります。
この仕組みは2027年度(令和9年度)から開始予定とされています。
④ 22週間実習が前提
薬学実践実習は
22週間の実務実習終了後
に行われます。
つまり
- 基礎を学ぶ22週間
- 応用を実践する8週間
という構造になります。(医療施設以外の場合はこの限りではない)
⑤ 将来的には必修化の可能性
当初は
選択科目
としてスタートします。
しかし、制度設計では
将来的な必修化
が視野に入っています。
従来の実務実習との違い
教育の違いを理解するために、医療教育でよく使われる
ミラーのピラミッド
という概念があります。
これは臨床能力を4段階で表したものです。
- Knows(知識)
- Knows how(理解)
- Shows how(実演)
- Does(実践)
この視点で比較すると次のようになります。
| 項目 | 実務実習 | 薬学実践実習 |
|---|---|---|
| 期間 | 22週間 | 約8週間 |
| 実習先 | 病院・薬局 | 病院・薬局 |
| 目的 | Shows how(実践を体験) | Does(自律的に実践) |
| 学習段階 | 基礎能力の習得 | 臨床能力の深化 |
| 位置付け | 必修 | 選択(将来必修化予定) |
つまり、実践実習は
「体験する実習」から「実際に実践する実習」
へとレベルが上がります。
現場の薬剤師にとっての意味
この8週間は、学生にとって非常に重要な期間になります。
学生は単なる見学者ではなく
医療チームの一員として考え、行動すること
が求められます。
教育学では、これは
経験学習(コルブの学習サイクル)
に近い考え方です。
学習は次のサイクルで進みます。
- 経験する
- 振り返る
- 理論化する
- 再び試す
つまり、学生は
現場で考えながら成長する
ことになります。
実習は「職場の本質」を映す鏡
これまでの実習は
11週間
でした。
しかし実践実習が加わると、
最大19週間
学生が同じ現場を見る可能性があります。
そうなると、次のことが学生に伝わります。
- 職場の雰囲気
- 疑義照会の質
- 多職種連携の実態
- 薬剤師の臨床レベル
短期間では隠せても、長期間の実習では本質が見えるのです。
教育体制は「最強の採用戦略」になる
近年、薬剤師不足が問題になっています。
その中で、教育体制は
採用力を決める大きな要素
になります。
実習を通して
「ここで働きたい」
と思われる職場には
- 優秀な学生が集まる
- 若手薬剤師が定着する
- 臨床レベルが向上する
という好循環が生まれます。
つまり教育は
コストではなく投資
なのです。
現役薬剤師への問い
最後に、現場の薬剤師に問いかけたいことがあります。
あなたの職場は、学生に胸を張って見せられますか?
実習は単なる教育ではありません。
それは
職場の文化や臨床力を映す鏡
です。
教育に真剣に向き合う職場こそ、これからの時代に選ばれる職場になるでしょう。
まとめ
2028年度から始まる薬学実践実習のポイントをまとめます。
- 約8週間の追加実習が導入される
- 実習先は病院・薬局
- 22週間の実務実習終了後に実施
- 4年次にマッチング予定
- 将来的には必修化の可能性
この制度は、学生のためだけのものではありません。
薬剤師という職業そのものの価値を高める制度
でもあります。
現場の薬剤師が教育に本気で向き合うこと。
それが、これからの薬剤師の未来をつくります。

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