【感染制御認定薬剤師がレクチャー】破傷風トキソイドと免疫グロブリンの使い分け

感染症

~各製剤の特徴と接種スケジュールを正確に理解する~

はじめに

破傷風は、Clostridium tetani(破傷風菌)が産生する外毒素によって引き起こされる急性感染症です。致死率が高く、ワクチンが普及した現在でも発症すると重篤な転帰をとる可能性があります。そのため、予防接種による免疫獲得と、外傷時の適切な曝露後対応が極めて重要です。
本記事では、破傷風トキソイド製剤の特徴と接種スケジュールを整理し、さらに外傷時におけるトキソイドと破傷風免疫グロブリン(TIG)の使い分けについて詳しく解説します。


IWAKI
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まずワクチン、トキソイドなどについておさらいしましょう。

おさらい

1. 生ワクチン

  • 定義:病原体を「弱毒化」または「無毒化」したものを使用。
  • 特徴
    • 接種後、体内で実際に「増殖」して免疫を誘導する。
    • 少ない回数で強い免疫がつきやすい。
    • ただし免疫不全者や妊婦には禁忌
  • :麻しんワクチン、風しんワクチン、BCG、MRワクチン、水痘ワクチン など。

2. 不活化ワクチン

  • 定義:病原体を「殺して」感染性をなくしたもの。
  • 特徴
    • 体内で増えないため、安全性が高い。
    • 免疫の持続が短く、**複数回接種(追加接種・ブースター)**が必要。
  • :インフルエンザワクチン、日本脳炎ワクチン、百日咳ワクチン、ポリオ(不活化)ワクチンなど。

3. トキソイド

  • 定義:細菌が作る毒素を化学的に処理して「毒性をなくしたもの」。
  • 特徴
    • 毒素自体に対する免疫をつける。
    • 細菌そのものではなく「毒素」が病原性の主体である疾患に用いられる。
  • :破傷風トキソイド、ジフテリアトキソイド。

4. 抗毒素

  • 定義:動物(馬など)にトキソイドや毒素を投与して作らせた 抗体製剤
  • 特徴
    • 接種後すぐに「受動免疫」を得られる。
    • ただし異種タンパク質なのでアレルギー(血清病)に注意。
  • :乾燥ガスえそウマ抗毒素、乾燥ジフテリアウマ抗毒素、乾燥はぶウマ抗毒素、乾燥ボツリヌスウマ抗毒素、 乾燥まむしウマ抗毒素

5. グロブリン

  • 定義:ヒト血清から分画精製した免疫グロブリン製剤。
  • 特徴
    • 人由来なので安全性が高い。
    • 広範な抗体を含む「通常の免疫グロブリン」と、特定病原体に高い抗体価を持つ「特異免疫グロブリン」がある。
    • 通常:ガンマグロブリン製剤(免疫不全症などに使用)
    • 特異的:狂犬病免疫グロブリン、B型肝炎免疫グロブリン、破傷風免疫グロブリンなど。
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ここをしっかり押さえておきましょう。

破傷風トキソイドとは

破傷風トキソイドは、破傷風菌の毒素(テタノスパスミン)をホルマリン処理して無毒化したものです。毒性は失われていますが、免疫原性は保持されているため、接種により抗毒素抗体を産生し、感染防御能を獲得できます。

主な製剤

  1. DTaP-IPV-Hibワクチン(ジフテリア、百日せき、破傷風、不活化ポリオ、ヒブ(Hib)
     → 5種混合ワクチン。乳幼児定期接種で使用。
  2. DTaP-IPVワクチンジフテリア、百日せき、破傷風、不活化ポリオ、ヒブ(Hib))→4種混合ワクチン
  3. DTaPワクチンジフテリア、百日せき、破傷風)→3種混合ワクチン
  4. DTワクチン(ジフテリア・破傷風混合)
     → 主に小児(百日せき抗原不要な年齢)に使用。
  5. 破傷風トキソイド単独(TT)
     → 特殊用途(外傷時やブースター)に使用。

接種スケジュール(定期接種)

5種混合ワクチン(DTaP-IPV-Hib)

  • 初回免疫:生後2~7か月に至るまでの期間を標準的な接種期間として20日以上(標準的には20~56日まで)の間隔をおいて3回接種
  • 追加免疫:初回接種終了後6か月以上(標準的には6~18か月まで)の間隔をおいて1回接種

4種混合ワクチン(DTaP-IPV)

  • 初回免疫:生後2~12か月に至るまでの期間を標準的な接種期間として20日以上(標準的には20~56日まで)の間隔をおいて3回接種
  • 追加免疫:初回接種終了後6か月以上(標準的には12~18か月まで)の間隔をおいて1回接種

3種混合ワクチン(DTaP)

  • 初回免疫:1回0.5mLずつを3回、いずれも3〜8週間の間隔で皮下に注射する
  • 追加免疫:初回免疫後6カ月以上の間隔をおいて、(標準として初回免疫終了後12カ月から18カ月までの間に)0.5mLを1回皮下に注射する

破傷風トキソイド(TT)

  • 定期接種はありませんが、前回接種から10年以上経過した場合はブースターを検討
  • 外傷時などで必要に応じ、トキソイドを追加接種します。

外傷時の対応:トキソイド vs TIG

破傷風は芽胞が皮膚・粘膜の損傷部から侵入し、体内で毒素を産生することで発症します。刺創や挫滅創、土壌汚染創では特にリスクが高く、曝露後対応が重要です。

判断基準

  1. 創の種類(清潔 vs 高リスク)
     - 清潔な小さな切創 → リスク低
     - 刺創、汚染創、壊死組織を伴う外傷 → リスク高
  2. ワクチン接種歴
     - 完全接種済み(4回以上)で5年又は10年以内
     - 最後の接種から5年又は10年以上経過
     - 接種歴不明または不十分


破傷風免疫グロブリン(TIG)

トキソイドは抗体産生まで2週間程度必要なため、即効性はありません。そのため、重症・汚染創で免疫が不十分な場合には受動免疫であるTIGを併用します。

TIGの特徴

  • ヒト血漿由来の抗体製剤
  • 投与後すぐに抗毒素効果を発揮
  • 効果持続は数週間のみ(トキソイドの代替にはならない)
  • 通常250単位を筋注

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抗体の持続期間は10年だけど、リスクを考えて要不要は判断します。

治療期間と免疫持続

  • トキソイド(TT):免疫持続は約10年。ブースター接種により再延長可能。
  • TIG:持続数週間。あくまで「つなぎ」として使用。

各部位ごとの抗菌薬移行性との関連

破傷風そのものは抗菌薬で治療できず、毒素中和が中心です。ただし、創部での破傷風菌増殖を抑える目的でペニシリン系・メトロニダゾールが併用されます。抗菌薬単独では防げない点に注意が必要です。


まとめ

  • 破傷風は依然として致死率の高い感染症。
  • 予防の基本はトキソイドワクチン接種。免疫は10年程度持続
  • 外傷時には創傷リスク接種歴を確認し、トキソイドやTIGを適切に使い分ける。
  • トキソイドは長期的な予防、TIGは即効性のある一時的予防という役割を明確に理解することが重要。
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接種歴は状態で不明な点が多い時は「接種」が無難ですが、供給が不安定(2025年8月)でセーブしたい場面も出てきています。

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